日々是傾き

歌舞伎、着物、その他いろいろ。傾いたり傾かなかったりな出来事あれこれ。

【講演会】芸術の秋に歌舞伎を楽しもう!~江戸時代の芸能と社会

歌舞伎研究の第一人者でいらっしゃる高校の先輩の講演会に参加。大変興味深いお話を拝聴した。

仮名手本忠臣蔵」を題材に、ということだったので、見どころ解説的な、イヤホンガイド的な話中心かな、と想像してたのだけど、いやいや、とてもアカデミックな、「ほう、ほう」と身を乗り出してしまうほど興味深い、ディープな話。江戸の庶民たちのマインドが解り、知らぬ間にタイムトリップして、講演が終わる頃には自分が江戸庶民になっていた感。

江戸時代、歌舞伎が人気を博していたころ、全国的に歌舞伎興行が盛んに行われていた、とのこと。有名な役者だけではなく、家族・個人単位の芸能者たちが、プロもアマも新作歌舞伎を演じていた、とは。しかも、それが記録として残っている。
福岡は糸島半島の泊という役者村に残る「泊役者の演目一覧」。もちろん「仮名手本忠臣蔵」も載っているし、九月歌舞伎座の演目「双蝶々曲輪日記」「伽羅先代萩」十二月歌舞伎「本朝廿四孝」「妹背山婦女庭訓」といった、平成の今も度々かかる演目がズラリ。
その多くは人形浄瑠璃から歌舞伎に輸入された「丸本歌舞伎」と呼ばれる演目である。

人形浄瑠璃で人気があったから、歌舞伎で演じる。というのは、今でいう漫画が原作の映画とか、それこそ今まさに上演中の、スーパー歌舞伎セカンド「ワンピース」と同じ手法か。「ワンピース」は新歌舞伎の中でも特に「傾いた」ものだと思うけど、人形浄瑠璃が歌舞伎に、というのは歌舞伎の王道だったのだろう。

人形の名残が残った演目として思い浮かぶのは「俊寛」(平家女護島)。鬼界ヶ島の海女・千鳥が人形の動きをするのが見どころでもある。そういえば、「俊寛」しばらくかかってないような。何年前だったか、勘三郎存命のころ、鹿児島は硫黄島で「俊寛」を演ったなあ。野外歌舞伎。

江戸の庶民は、そこいらで、ちょいと歌舞伎を演じていたり、千両役者も乞食の親子も、同じ「忠臣蔵」を演じていたり。そういう記録を解りやすく説明していただき、歌舞伎目線で江戸にタイムトリップできた、とても面白い講演でした。


■参考文献を図書館で借りた
「シリーズ身分的周縁と近世社会4 都市の周縁に生きる」(吉川弘文館
「役者村」の章

シネマ歌舞伎「大江戸りびんぐでっど」


映画『シネマ歌舞伎 大江戸りびんぐでっど』予告編 - YouTube

勘三郎三津五郎染五郎勘九郎七之助ほか豪華メンバーが繰り広げるクドカンワールド。これは見ておかねば。ということで、東劇で観てきました。小雨降る土曜の11時というのに、大盛況。満席?

「暫」「らくだ」といった歌舞伎の演目がパロディになっていて、それでなくても面白いのに、ゲラゲラ笑ったり、くすくす笑ったり、オトナな描写や痛烈な皮肉に苦笑いしたり。これぞ歌舞伎=傾きではないか!

前半、かなり軽快に大笑いしていたのに、後半だんだん人間の本質に迫ってくると、笑いの中にも、深く考えさせられる場面や、涙が出そうになる一幕も。古典歌舞伎を引っくり返したような愉快で斬新かつ辛辣なクドカンワールドが、徐々に「歌舞伎」になっていく。私が歌舞伎好きなのは、そもそも人間の本質なんて400年やそこらで変わらないと思ってるから、歌舞伎の世界に大いに共感できるからだ。
それにしても、染五郎は上手い。心の奥にある醜い部分や純粋な部分、悩み苦しみながらもズルい部分。生きてる人間を演じること、生ける屍となった、それでも生きる人間を演じること。
七之助のキュートさは言わずもがなだし、勘九郎もいい味出している。
勘三郎三津五郎に会えたのも嬉しい、ドタバタコメディ歌舞伎。

生ける屍のように生きてる人は、死んでいるのか、生きてるのか。死んだ人は、肉体が死んだだけなのか、精神は生きているのか、生きているなら、どこで?何をもって生きているとするのか。「りびんぐでっど」とは死んだのか生きてるのか、りびんぐでっど と生きてる人間の境界線はどこにあるのか。
死んだ人のことを考えても仕方ない。その人は生きてないんだから。本当にそうなのか。
死んだ人から見ると、生きてる人間は意地を張ってるだけなんじゃないか。
色々と考えさせられることのあった、でも楽しい演目でした。

メインストーリーとしては、りびんぐでっど=半人前の人間、人並みに話すこともできないゾンビが派遣(社員)となり、人間の嫌がる仕事を請け負う、という、派遣の話が語られるのだけど、それは置いといて。
しかし、歌舞伎役者さんが、今ふうのセリフ喋ったり、今ふうのダンスを踊るのは、それだけで本当に面白く、歌舞伎初心者でも取っつきやすい、賛否両論あったけど、なかなか良い演目。

上映期間1週間って短いなあ。

 

八月納涼歌舞伎 第三部

笑いの止まらない演目2幕。

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花道がバッチリ見える東席から観劇。
まずは舞踊「芋掘長者」。緑御前の七之助の可愛らしいこと。
舞のできる治六郎を巳之助が演じ「十世坂東三津五郎に捧ぐ」一幕。芋掘藤五郎の下手な踊りを、下手に見えるように上手に踊るのは橋之助。うまく踊れない藤五郎と、黒子となって舞の手ほどきをする治六郎の掛け合いの面白さ。芋掘踊りの面白さ。
最後は全員で芋掘踊りを舞って、お姫様の七之助も客席に向けてお尻フリフリして何とも楽しい。一緒に観劇した同級生いわく「まるでドリフやな」。滑稽で楽しくてドタバタで、舞踊劇なのに全く飽きることなく、笑いも何度も起きて、満足な一幕でした。

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そして「祇園恋づくし」秀逸。後日、幕見でも観てしまったほど。
勘九郎、江戸っ子ぶりが粋だなあ。勘三郎を彷彿とさせる。ちゃきちゃきの江戸っ子セリフは早口で、よくあれだけ喋れるものだ、と感心。「お父さんに似て」心地よい。滞在先の娘おそのが自分に気があると思い込んでの舞い上がりぶり、いい人と思われたい気取りぶり、どんでん返しで気持ち破れたときの正直な落胆ぶり。全てが江戸っ子、気っぷが良い。

対する京男、文吉を演ずる巳之助、ネチネチグダグダなよなよぶりが、あまりに面倒くさくて面白い。
ベテラン勢では、 夫と妻の二役演じた扇雀が面白い。お茶屋話がまた可笑しくて、夫役扇雀が芸子に入れ込む設定で、「いや、芸子じゃなくて舞妓のほうが好みとか?」→お父さんの遺伝子?(扇雀のお父さまは藤十郎=舞妓相手の開チン事件)というような、若い世代にはピンと来ないだろうネタにクスリと笑う。

七之助の美しさにも磨きがかかり、大満足な今日の歌舞伎でした。楽しかった~!
幕見席から見た感じ  ↓

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住吉神社例大祭・佃祭2015

片棒を担ぐ。というより、ぶら下がってきました。
江戸幕府に許可された由緒あるお祭り。3年に1度の例大祭は江戸庶民の憂さ晴らし?平成の今も同じかな。写真は8月1日の町内神輿。

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歌舞伎の夏祭りで思い出すのが「夏祭浪花鑑」。

七段目「長町裏(泥場)」では、凄惨な舅殺しが展開するのだけど、そのバックには祭りのお囃子や人々の喧騒が。だんじりのお囃子が人をトランス状態にするのか、舅の婿いびりが度を超え、婿の精神の限界に達し、狂気の中で舅を殺してしまうのだ。

住吉神社例大祭、クライマックスは今日(8月3日)宮神輿の町内巡幸である。もちろん担がせてもらった。
我さきに神輿を担ごうと群がる人々や、「おりゃ、おりゃ」の掛け声、お囃子の音。神輿は前に進んだと思えば後退し、人々の怒号や手拍子の音、歓声、沿道のあちらこちらから掛けられる水。水しぶき、熱気。担ぎ手は、町内神輿の比ではないほど隙間なく並んで、ずぶ濡れの体が密着している。
お祭りは、見るのも楽しいけど、参加してナンボのものかもしれない。江戸庶民になって、歌舞伎の世界にタイムスリップできたような。3年後、今度は娘も一緒に出たいなあ。

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七月大歌舞伎 昼の部

さて、超プラチナチケットをゲットして、行ってきました。歌舞伎座七月歌舞伎。
何せ、6月11日の段階で、昼の部 平日も完売! 一般発売の前日に。
こんなに早く売り切れていたとは、お釈迦様でも 気がつくめぇ。

与話情浮名横櫛(見染め&源氏店)
与三郎 海老蔵 × お富 玉三郎  蝙蝠安 獅童  和泉屋多左衛門 中車

楽しみ~! ってことで、特に二幕目の名セリフの数々を楽しみにしていたのです。

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で、やはり満席。
まずは、南総里見八犬伝NHKの人形劇でもやってたなあ。見どころの「だんまり」や、屋根の上での立ち回りなどなど、ザ・歌舞伎な演目で、おいしいとこ取りで良かったなあ。でも、これでも前座。

そして、待ってました! 与話情浮名横櫛。見染め&源氏店。
木更津の浜辺でお互い一目惚れする、海老蔵玉三郎玉三郎の「いい景色だぁねぇ」がゾクゾクしたし、海老蔵の惚けた表情がとても良い。私もあんな風に惚れられたい! 恋に落ちた人の、あの感じ。たまらんなあ。(どうでもいいか)
しかし、海老蔵、1階席を歩いて客席を大いに沸かせてたなあ。3階席からは見えなかったけど。
しかし、本当に「待ってました」なのは、源氏店の場。
いやさ、お富。久しぶりだぁなぁ・・・。思わぬところで再会した二人。いやあ、ドラマチック!
名セリフのオンパレードで、何度聞いてもニンマリしてしまう。
個人的には染五郎の与三郎が印象深く、ちょっと比べてしまうけど、海老蔵も頑張ってたんじゃないかなあ。
蝙蝠安は獅童もいいけど、中車でも見たい。あんな悪い感じはピカイチだと思う。
猿弥の藤八もコミカルで良かった。


最後のお楽しみは、猿之助の早変わり、蜘蛛絲梓弦(くものいとあずさのゆみはり)。
これが、また。
やはり海老蔵は荒事だな。猿之助に負けてなかった、押し戻し。成田屋っ!
二幕目、尻切れトンボだったけど、三幕は、ヤンヤヤンヤで大喝采。良かった~! 海老蔵は、これでなきゃ。セリフは要らない。荒唐無稽がよく似合う。これぞ歌舞伎、これぞ成田屋。アドレナリン出まくって、ほんと楽しかった。
もちろん猿之助は今日も魅せてくれました。早変わりも華麗な舞にも感動した! 一番良かった!
海老蔵×猿之助、最強やなあ。

3階席の端っこだったけど、 十二分に楽しませていただきました。元気出た~!

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サッシペレレ

知る人ぞ知る、ブラジル音楽と料理のお店、 サッシぺレレ。
http://www.saciperere.co.jp/

ボサノバの日には行ったことがあったのだけど、サンバの日、初体験。

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ライブが始まり、盛り上がり始めの合図は、ジャーン!サンバなお姉さんが登場!

テーブル席の近くに来てくれるのだけど、もー、スゴいんです。画像は上げませんが、後ろ姿が…。キュッと上がっていて。キュキュッと締まっていて。

この日の出演は
Nero(ボーカル、パーカッション)
Ronaldo(ギター)
吉田 和雄(ドラム)
サンバなお姉さん、ダンサーはRenataさん。

Bossa Novaのちょっと気だるい心地よさが、いつの間にかSambaのダンサブルなノリの良さに変わっていて、そこでサンバなお姉さんが盛り上げてくれたら、もう身体が勝手にフロアに出ちゃうワケだ。


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ミュージックチャージ2000円(金曜日)。
あまりにも楽しくて、3ステージ見て、しっかり踊って毎度汗ダク→飲み物進む。という好循環。
興奮さめやらぬまま外に出たら、夜風が心地よくて、日頃のちっぽけな悩みなんて、どこ吹く風。

店名の「サッシペレレ」って、 ブラジル北部の山中に住んでいると言われている子供の妖精なんだそうで、この妖精ちゃん、大人嫌いで大人にいたずらするのだとか。
日頃の大人社会のモヤモヤを忘れさせてくれるイタズラだったら大歓迎。

サッシペレレ
また行きたいな。今度は誰と行こうかな。

明治座 五月花形歌舞伎 昼の部

明治座 初日。

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昼の部は「矢の根」右近、「男の花道」猿之助愛之助、中車。猿之助が女形の歌右衛門を演じる。どうですか、猿之助の、この美しさ。

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去年の明治座 五月花形歌舞伎 は染五郎義経千本桜だったけど、今日と同じように五月晴れで気持ちが良い日だったなあ。もうすっかり初夏です。
今日のお席は2階右(二等席)。花道が良く見えます。

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まずは、歌舞伎十八番の内「矢の根」で幕開き。曽我五郎は右近。
「暫」の鎌倉権五郎と同じ車鬢と筋隈が勇ましい、ザ・荒事。
しかし、大根を掲げて見得を切るのが笑えた。大根!大根ねぇ。

で、「男の花道」である。
いや~。面白かった。男の花道。歌舞伎版 走れメロス中車(大和田常務)が、しぶとく謝罪を拒否する役どころなのも笑えたし、しかもラブリンと共演だし。しかし、何といっても猿之助の踊り、うまいなあ。感服しました。

それにしても・・・
(ネタバレあり)

いつの間にか、私たち観客が芝居のキャストになっていて、客席と舞台の一体感が良かった。お客さんが思わず舞台の猿之助に返事したりして(ちょっとイケてない返事だったけど。笑うシーンじゃないのに客席から笑いが漏れた)。
ああ、間に合わない・・・おーい、まだ来ないの?・・・はっ!やっと来たよ。の場面では、女性のお客さんから「待ってました」の声がかかるし(思わず発したみたい)。
いずれも、否定的な返事、女性の大向こうってことで、私にしてみれば「えっ!?」てな感じだったのだけど、芝居を観に来た私たちが、劇中の芝居の観客にもなっていて、私たちも芝居に参加している感が良かったなあ。
中村座での芝居という設定も、先週、平成中村座に行ってきた私としては、芝居の世界観にどっぷりはまってしまい、非日常を堪能できた演目でした。

(ということで)
申し訳ないけど、右近の矢の根、前座なんだけど、完全に霞んでしまった。あれはあれで良かったのですが。

猿之助、前回見たのは壽初春大歌舞伎「黒塚」の鬼女、老婆役。今回は稀代の女形役。どんな役もこなせるのがスゴイ。そして、踊り、巧いわー。何度見ても、いつも新鮮で迫力があってキレがあって、スゴイの一言。また見たい。